この記事では、過払い金を取り戻すための具体的な方法や手順について説明していきます。最初に、専門家に依頼することなく過払い金を取り戻すことが可能かどうかについて、お話ししていきます。
専門家に依頼をすれば当然その費用がかかりますから、特にお金の問題を抱えている方にとっては、1円でも節約できるのであれば、節約したいと考えると思われます。
また、そもそも専門家に依頼しようにも、その費用がないために、ご自身の力のみで過払い金を請求しようとお考えの方もいるかもしれません。
目次
納得できる返金額を確保するためにも専門家に依頼した方が確実
結論を先に述べておくと、過払い金の請求は「専門家に依頼すべき」ということになります。もちろん、建前としては専門家の力を借りることなく、ご自身だけで過払い金を返還してもらうことは決して不可能ではありません。
たとえば、債務整理のために特定調停を本人申立てで利用された際に、過払い金が発覚した場合などには、そのままご本人の申立てで過払い金を返還してもらうための民事調停を申し立てることもあり得るかと思います。しかし、そのような経緯で過払い金の返還を請求することは、どちらかと言えば稀なケースでしょう。
過払い金の返還を求める際には、①まず過払い金が存在するかどうかの調査をする必要があります。そして、過払い金の存在が確認できた場合に、②貸金業者等を相手に過払い金の返還を求める交渉を行うという流れになりますが、①②いずれの作業も法律の知識や交渉スキルが必ずしも十分とはいえない一般の方が単独で行うことは、難しいものです。
さらには、後にも触れることになりますが、③相手先となる貸金業者によって過払い金返還請求に対する対応が違うことにも注意が必要です。
どの段階で専門家に相談するべきか
この記事は2017年の8月に作成されていますが、いま現在の段階で、「わたしの(過去の)借金の返済には過払いがあるかもしれない」という疑念を持たれた場合には、とにかく早い段階で、弁護士や司法書士に相談されることが強く勧められます。
なぜ相談を急がなければならないのか?
なぜ、早く相談しなければならないかといえば、それは現在の時点で、まだ貸金業者に請求されていない過払い金については、時効が完成しているか、もしくは、時効の完成が近い可能性が少なくないためです。
また、過去には、大量の過払い金返還請求がなされたこと等が原因で、当時、消費者金融の最大手の1つだった武富士が倒産したことは、よく知られています。実際には、武富士以外にも経営が破綻し倒産処理を行った貸金業者は少なくありません。
同じく消費者金融大手のアイフルも平成21年に事業再建のための私的整理(事業再生ADR)の申請をしています。中小の貸金業者が相手となる場合であれば、大手以上に財務状況は厳しい可能性が高いですから過払い金の返還を求めるかどうか検討している間にその経営が破綻したり、破綻する前に廃業したり、あるいは、他の貸金業者と合併したりということがあるかもしれません。そのような場合には、過払い金の返還を求める交渉はより複雑なものになります。
そのような事態となることを回避するためにも、過払い金の請求はできるだけ速やかに行われるべきでしょう。
【関連記事】61.過払い金を取り戻すまでの具体的な5つのステップと注意点
過払い金を返還してもらうまでの流れ
弁護士や専門家に依頼することを前提に過払い金を返還してもらうまでの大まかな流れについて確認していきます。弁護士や司法書士に依頼せず、ご自身で過払い金の請求を行うという場合もこの手順それ自体は同じです。
- 専門家への相談・依頼
- 受任通知および取引履歴開示請求の送付
- 取引履歴の開示と引き直し計算(過払い額の確定)
- 過払い金の請求書の送付と返還のための交渉
- 和解の締結・訴訟の終了・支払い
①専門家への相談・依頼
まずは専門家に過払い金についての相談をするところからはじめるのが最も一般的です。最近では、過払い金についての相談を初回無料としている弁護士や司法書士も増えてきましたし、平日夜間や土日の相談に対応する弁護士・司法書士も増えてきたので、これまでに比べればかなり相談しやすい環境は整ってきました。
信頼できる専門家をみつけましょう
債務整理の場面でも同じようなことがいえますが、弁護士や司法書士に依頼される方は、依頼を急がれる方が少なくありませんし、相談それ自体を面倒なものと感じられる方も少なくないようです。しかし、借金にかかわる問題は、それ自体がデリケートな問題ですし、過払い金の返還に関する実務は、その業務に精通しているかどうかで結論が大きく変わる可能性があります。
ですから、ご自身が信頼して安心して任せることのできる弁護士や司法書士を見つけるためにも、相談という段階は、非常に重要です。なお、実際に相談される際に重要と思われるポイントを下記にまとめておきますので、参考にされてください。
- 手元に資料がある場合には、必ずそれを持参する
- ハッキリと覚えていないことでも、わかる範囲で説明できるよう準備する
- 現時点で(相手先以外であっても)借入金がある場合には必ず伝える
- 現時点でできる資金繰りを確認しておく
- 今後の具体的な見通しについて必ず確認する
貸金業者等との取引の状況をできる限り説明する
貸金業者とのこれまでの取引について何かしらの資料が残っている場合には、それを持参するようにしましょう。特に返還を求める相手方への返済が現在もある場合には、直近の明細書だけでもかまいませんので、何かしら具体的な資料を持参された方が、よい相談が行われる可能性が高くなります。
既に完済している場合などで、過去のことはよく覚えていないという場合でも、どこの貸金業者から、いつからいつまでの間にいくら借りていたのかということについて、おおよそでもかまいませんので、記憶を辿っておくと、相談がスムーズに進みますし、過払い金の有無についての見通しが立ちやすくなります。
特に、取引が平成20(2008)年より前のものか、だいたい何年ほど返済してきたのかということは、過払い金の有無について見通しを立てる際に非常に重要となります。
現時点で借入金がある場合には必ず伝える
過払い金の請求によって、不測の不都合が生じることがないわけではありません。詳しくは下記の関連記事をご覧いただければと思いますが、過払い金の返済を求める貸金業者と現在も取引がある(借入金があり現在返済中である)場合には、特に注意が必要です。
【関連記事】62.過払い金請求はブラックリストに載る?注意すべき2つの条件とは
貸金業者の合併等がある場合もありますから、過払い金返還の相手方だけでなく、相談の時点でどこかしらの貸金業者からの借入金やクレジットカードでのショッピング(立替金)がある場合、クレジットカード等の更新が近い場合、近々何かしらのローン等を組む予定がある場合には、相談の際に弁護士や司法書士に伝えておいたほうが良いでしょう。
現時点でできる資金繰りを確認しておく
また、現在残っている借金を過払い金によって返済しようと考えているときには、借金の返済を先行させた上で、借金を完済させてから過払い金の返金を求めるという手順をとる場合があります。なぜ、このようなことをするのかといえば、依頼人債務者(あなた)の信用情報に傷がつくことを回避するためです。
このように、過払い金の回収前に返済をしてしまった方が有利となるケースもありますので、(後々過払い金が返還されることを前提に)いくら位までであれば負担できるのかということについて、予め検討しておくことで、弁護士や司法書士との相談がスムーズに進む場合もあります。
今後の具体的な見通しについて必ず確認する
弁護士や司法書士との相談の場は、あなたの問題を解決するための助言を得るためだけではなく、あなたが支援を受ける専門家を選択する場面でもあります。その問題が重要なものだからこそ弁護士や司法書士に依頼をするわけですから、やはりその専門家に依頼するとどうなるのかという見通しは知っておきたいものです。
むろん、交渉には相手がいますから、はじめてみないとわからないことがあるのも事実です。それでも、過払い金返還については、業務に精通している弁護士や司法書士であれば、それぞれの案件の見通しについて、それなりの制度で説明できるだけの力量があるはずです。
たとえば、過払い金返還のために行う取引履歴の開示や返還のための交渉は、相手先となる貸金業者によって対応がかなり違ってきますが、過払い金返還の実務経験が豊富な弁護士や司法書士であれば、あなたの相手となる金融機関がおおむねどのように対応してくるか予測することも可能でしょう。
なお、弁護士事務所や司法書士事務所の中には、この段階の相談を弁護士や司法書士でなく事務員(事務局長)が行うというところがあるようです。現在では、弁護士会・司法書士会のいずれのガイドラインでも、弁護士・司法書士が直接依頼者と面談相談することとされていますので、そのような事務所に依頼することは、あまり勧められません。
【関連記事】16.債務整理に強い弁護士・司法書士を見つけるための8つのポイント
②受任通知および取引履歴開示請求の送付
弁護士や司法書士に過払い金の返還について依頼をすると、債務整理について依頼をした場合と同様に、相手となる貸金業者等に対して、受任通知と取引履歴を開示することを求める文書を送付します。このときに相手方への債務が残っている場合には、債務整理と同様の扱いがなされますから、月々の返済は止め、全ての窓口を依頼した専門家に任せることになります。
ブラックリスト掲載との関係で注意が必要な場合があります
相手方への債務が残っている場合には、その貸金業者によっては、この段階でブラックリストに掲載されることもあります。また、カード会社を相手にする場合には、その会社のカードが利用できなくなったり、提携先銀行の預金が凍結されることもあり得ますから、事前に弁護士・司法書士と対策を講じておくことが大切でしょう。
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③取引履歴の開示引き直し計算
貸金業者には取引履歴を開示する義務がありますので、弁護士や司法書士から開示請求があれば必ず取引履歴を送付してきます。早い業者であれば1週間ほどで対応するところもあれば、遅いところは開示まで3ヶ月ほどかかる業者もあります。
また、開示される方法(FAXや郵便)や、開示される期間(業者はそれ以前の記録は処分していると主張します)も業者によってまちまちです。取引履歴は引き直し計算をする上でとても重要なものですが、必要となる情報を確実に集めることは大変なのです。
送付された取引履歴を基に、弁護士・司法書士は引き直し計算を行い、過払い金の額の算出を行います。この計算も知識のない方がご自身で行うことは、手間もかなりかかりますし、非常に難しいものです。
④過払い金の請求書の送付と返還のための交渉
過払い金の金額を算出したら、相手方となる貸金業者等に過払い金の請求書を送付することになります。しかし、請求書を送付するだけで、返金してもらえるはずはありませんので、この相手先との間で訴訟を行うか、和解交渉を行うことになります(訴訟と平行して和解交渉をすることもあります)。
弁護士や司法書士にご依頼される場合には、ほとんどのケースで訴訟で返還を求めることを提案されますので、訴訟によることを希望されない場合には、相談や依頼の段階で、弁護士・司法書士にその旨を伝えておいた方がよろしいでしょう。
なぜ訴訟なのか?
訴訟や和解交渉の場面でも、貸金業者によって対応がずいぶん違います。そもそも和解交渉では支払ってもらえない業者もありますし、和解の場合には相当の減額をこちらが飲まなければならない場合もあります。弁護士や司法書士が過払い金を返還してもらうための交渉手段として訴訟を選ぶのは、そのような理由もあるのです。
過払い金のあることが明かであれば、訴訟となった場合に負ける(1円も取れない)ということは、まずありません。そもそも、過払い金返還請求訴訟の場合であれば、勝ち目がないのに弁護士や司法書士が提訴を提案することはあり得ません。問題は、「どれだけの額を勝ち取れる」という点につきます。
訴訟と和解のいずれの場合であっても、相手方貸金業者と法律上の専門的な論点について議論をしなければなりませんから、この業務に精通している弁護士・司法書士に依頼されるかどうかで、結論は大きく変わってきます(たとえば、A弁護士に依頼をしたら100万円の過払い金を返還してもらえるケースが、経験不足のB弁護士に依頼したがために75万円しか返金してもらえなかったということはあり得ることです)。
⑤和解の締結・訴訟の終了・支払い
貸金業者等に対し過払い金の支払いを命じる判決が確定したときや、貸金業者等との和解が締結された場合には、過払い金が支払われます。この過払い金は、まず貸金業者より当弁護士や司法書士事務所の口座へ入金されることが一般的です。この場合は、貸金業者等から入金された過払い金から弁護士・司法書士が費用や報酬を清算した後に、残った残金が依頼人(あなた)にお支払いされることになります。
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