これまで個人破産のほとんどは、「同時廃止事件」として取り扱われてきました。ウェブ上で(個人の)自己破産について調べてみると、いまでも「自己破産は同時廃止」という説明をしているサイトが未だに存在していますし、たとえば友人・知人等の過去の体験談等からそう思い込んでいる方も少なくありませんが、実際には違います。
現在では、少額管財とか簡易管財(裁判所によって呼び名が違います)とよばれる方式が、個人の破産手続きの主流となっています。
目次
少額管財事件とはどのようなやり方なのか
少額管財事件は、「管財」という名前がついていますので、その基本形は管財事件です。したがって、破産管財人が選任されます。個人破産向けにアレンジしたものを少額管財事件だと理解しておけば良いと思います(現在では、法人の破産でも規模の大きくないものについては、少額管財で運用されています)。
ちなみに、この少額管財の「少額」というのは、債務額が少額という意味ではなく、予納金が少額という意味です。要するに、個人破産向けに予納金の額を減額し、手続きを簡易化した管財事件が少額管財事件です。
裁判所によって呼び名が違うことに注意が必要です
この少額管財事件という破産手続きの進め方は、平成11年に東京地方裁判所で実験的に始められたものですが、現在の東京地方裁判所では、通常管財といえば、少額管財のことを指し、従来型の管財事件のことを「特定管財」とよぶほど、少額管財が浸透しています。東京地方裁判所では管財事件の90%がこの少額管財による運用だといわれています。
東京地方裁判所以外の裁判所でも、この少額管財の運用は採用されていますが、「小規模管財」、「簡易管財」などその呼び方は様々です。この記事では、便宜上「少額管財」という呼び方を用いますが、予納金が20万円程度の管財事件は、呼び名が違っていてもすべてこの少額管財に該当するものです。
少額管財が導入された背景事情
破産手続きは、破産法という法律によってそのルールが決められていますが、破産法の規定は、破産者が法人や事業主の場合と個人の場合とで区別をしていません。したがって、大会社の破産の場合であっても、個人の破産であっても同じルール・手続きによって処理されます。
大は小を兼ねるという言葉がありますが、従来型の管財事件は、大型の案件でも対応できるだけの備えをもたせたものなのです。ですから、個人(や中小法人)の破産事件を処理するには、少し大げさすぎる(管財事件とする際のハードルが高すぎる)のです。そのような背景もあって、これまでは、個人の破産事件のほとんどは、同時廃止の扱いとなってきました。
原則同時廃止への批判
しかし、借金問題が社会問題となるほどの状況になるほどに破産者の数が増えてくるにしたがって、極端に言えば、破産の処理が「1か0か」というような取扱いになっていることへの批判や反省が強くなっていきます。要するに、同時廃止となれば1円の返済(配当)もないままに免責されるということを見直そうという動きがでてきたのです。
つまりは、個人破産だからといって安易に同時廃止にするのではなく、破産手続きをより適切で公平なものにしようという考えが、少額管財が導入された背景にあるのです。
個人破産は同時廃止が原則ではなくなりました
以上のような流れもあり、現在では、これまでのような「個人破産は原則同時廃止」という運用は、多くの裁判所で採用されていません。東京地方裁判所では既に個人破産の50%以上が少額管財とされていますし、次に説明するように、少額管財は様々な目的・基準で採用されていますから、個人破産の場合には、少額管財となるのが原則と考えておいた方がよいでしょう。
少額管財とされるケース
それでは、どのような場合に、同時廃止ではなく少額管財として取り扱われるのでしょうか。一般的には、破産者の財産が、「20万円」以上の場合には、少額管財事件として取り扱われます。この財産の例は、次の通りになります。
- 銀行口座に残された貯金が20万円以上の場合
- 20万円以上の価値があるとされる自動車を所有している場合
- 20万円以上の解約金のある生命保険がある場合
- 20万円以上の価値がある有価証券(株券など)がある場合
- 破産者名義の不動産(土地・建物)がある場合
- 退職金の支給見込額が160万円を超える場合
以上の例をみていただければ、管財事件とされるハードルはそんなに高くないことがわかります。
少額管財における管財人の役割――7つの選任パターン
少額管財であっても従来型の管財(特定管財)であっても、破産管財人の業務の基本は変わりがありませんが、少額管財は個人破産の処理を念頭においていますので、事案の規模も必ずしも大きくなく、実際の少額管財において破産管財人に求められる業務は、以下にまとめるような7つのどれかの業務に集約されていることがほとんどです。
配当型
預金や生命保険・退職金(退職前の支給見込額)といった簡易に現金化できる財産が20万円以上あり、これを配当する場合
免責調査型
破産者に明らかに免責不許可事由がある場合に、その具体的な事情を調査させるために破産管財人を選任するために管財事件とされる場合
偏頗弁済型
破産者が支払停止(借金の支払いが困難な状況)になった後に、一定の債権者に対して特別扱い(優先的な返済)を行った場合に、これを否認する目的で破産管財人を選任するために管財事件とされる場合
不当利得型
破産者に過払い金がある場合にこれを回収して債権者への配当に充てる目的で破産管財人を選任するために管財事件とされる場合
差押え解除型
破産開始前に債権者が破産者の給与を差し押さえている場合に、この差押えを解除する目的で破産管財人を選任するために管財事件とされる場合
資産調査型
破産申立時に提出された書類では、破産者の財産状況が明確となっていない場合に破産者の財産の調査、不動産などの資産の評価を目的に破産管財人を選任するために管財事件とされる場合
自由財産拡張型
破産者に認められている自由財産の範囲を拡張する目的で破産管財人を選任するために管財事件とされる場合
逆の話をすれば、たとえば、破産者の財産が多すぎる場合や、債権者の数が多すぎる(50人以上)という場合のように、破産管財人の業務が上記のようなパターンに簡易化されることができないような複雑な案件の場合には、少額管財ではなく伝統的な管財事件(特定管財)として取り扱われることになります。
上で紹介した類型の場合であっても、裁判所によっては、配当型は少額管財ではなく従来型の管財としている裁判所もありますし、偏頗弁済型は少額管財にはしないという裁判所もあります。複雑な事件として扱われるかどうかの、一つの目安としては、その破産事件の処理が3ヶ月を超える可能性が高い事件については、従来型の管財事件(特定管財)として取り扱われる(予納金50万円以上)ことになります。
破産者の財産が20万円以上であるときには、管財事件として取り扱われますが、それに満たない場合であっても、少額管財の利用がなされるケースがあります。上で紹介している免責調査型や自由財産拡張型とよばれる少額管財は、破産者の財産が20万円に満たない場合であっても、破産者自身の利益のために、少額管財の利用が申し出られることがあります。地域によっては(少額管財の運用を支えるには、次に説明するように一定のマンパワーが必要となるため)、免責調査型・自由財産拡張型の場合にだけ少額管財を実施するという裁判所もありますので、それぞれの地域での運用については、弁護士・司法書士におたずねください。
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少額管財事件のもう一つの特徴――迅速な手続き
少額管財事件のもう1つの重要な特徴は、手続きが迅速に進められるということです。伝統的な管財事件の場合には、手続き開始から破産手続きの終了までに1年以上かかることが少なくありません。これが少額管財の場合であれば、手続き開始から3ヶ月程で破産手続きが終了します。先にもお話しましたが、これを超えるほど複雑な案件は、伝統的な管財事件(特定管財)として取り扱われることになります。
即日面接
少額管財が迅速な手続きを謳っていることのシンボルとなる仕組みが「即日面接」とよばれるものです。これは、破産手続きの申し立て後、最短で当日、遅くとも3日以内に、破産審尋(裁判官の面接)を行うという運用です。現在は、東京地方裁判所のみで実施されている試みですが、少額管財の場合と同様、後々には多くの裁判所で採用される可能性があります。
必ず弁護士代理人がついていること
冒頭にもお話したように、少額管財の「少額」とは、債務額が少ないということではなく、「予納金」が少額であるということです。この予納金は破産管財人の報酬に充てられます。つまり、少額管財の破産管財人は、これまでの破産管財人に比べて報酬が安いということになります。
ですから、その分だけ破産管財人の仕事を簡素化しなければ、手続きが早く終わらないばかりでなく、破産管財人のなり手もいなくなるということになります(破産管財人は弁護士がなりますが、弁護士の感覚からすれば20万円という破産管財人の報酬はボランティアに近い金額です)。
したがって、本来破産管財人が行う破産者の財産の調査や破産債権の調査といった作業を申立人代理人である弁護士が、破産申立て前に予め行っておくことが、少額管財の運用の前提となっています。東京地方裁判所では、少額管財の場合の予納金のことを「引継予納金」と呼んでいますが、これには、代理人弁護士から破産管財人に作業が引き継がれるという意味合いが含まれています。
少額管財の利用には、弁護士代理人が付いていなければならないとされる理由はここにあります。
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