借金の問題で悩んでいる人のなかには、貸金業者等からの借入だけではなく、親戚や友人からもお金を借りているという人も少なくないでしょう。
「迷惑をかけたくない」、「人間関係を崩したくない」という思いから、破産をためらったり、あるいはそのような借金があることを意図的に隠してしまうこともよく耳にします。このような友人や知人からの借金は破産手続きにおいてどのように扱うべきなのでしょうか。
目次
大原則
破産手続きは、破産者のすべての財産とすべての債務とを清算するための手続きです。破産という手続きは、後に免責が待っていますので、破産手続きによる配当によってもなお回収できなかった債務は、回収不能となりますから、非常に強力な手続きです。したがって、破産の手続きには、「すべての債権者」が手続きに関わっていることがとても大切なのです。
債権者平等の原則
破産者が破産すれば、債権者にとっては損失が発生します。しかもそれは、債権者の意向に関係なく強制的に負担させられるものです。したがって、その損失は債権者の中で公平に負担するものでなければいけません。そのため、破産手続きでは、「債権者平等の原則」という考え方をとても重視しています。
破産手続きでは、債権を届け出る必要があります
破産手続きでは、すべての債権者に対して平等に配当をしなければいけませんから、そのために、破産を申し立てる際に、債権者一覧表を提出しますが、そこには、漏れなくすべての債権者が記載されている必要があります。
この債権者一覧表の記載に基づいて、債権者名簿が作成されることで、債権者は破産手続きに関与することができます。万が一、債権者名簿から記載漏れとなった債権者がいる場合には、この債権者へは破産の効力が生じませんから、免責を受けたとしても、その債権については免責されないことになります。
友人の借金を債権者一覧表に記載しなかったらどうなるのか?
「友人に迷惑をかけたくない」とか「破産することを友人に知られたくない」あるいは「友人からの借金は返済するのだから債権者一覧表に書かなくても良いだろう」といったことから、債権者一覧表にその友人を記載しなかったり、友人から借金をしていることを弁護士(や司法書士)に隠してしまうということがありえます。
しかし、これは破産のルールの中では認められていない行為です。破産法では、虚偽の債権者名簿(債権者一覧表)を提出した場合には、免責を不許可とすることが定められています。
このケースでは、先に説明したような、偶発的に記載漏れがあったというわけではありませんから、その債権だけが免責されないというのではなく、すべての債務について免責されない(免責不許可)というとても重いペナルティーが待っています。
記載漏れの場合にはどうしたらよいのか
破産を申し立てるような状況にある場合には、精神的に落ち着かないことが多いでしょうし、貸金業者への対応などにおわれて、友人から借金をしていることを忘れてしまったということは、十分にあり得ることです。
そのような場合には、免責手続きにおける債権者の意見申述期間までに、漏れていた債権者破産債権者として追加することができます。
記載漏れのまま免責手続きが終了した場合にはどうなるのか
記載漏れがあることに気付かないまま、免責手続きが終わってしまったときには、破産債権者として事後的に追加することはできません。その場合には、債権者一覧表から漏れた債権は免責されないというのが原則です。
現実的な話をすれば、忘れていられるような借金ですから、その友人から返済を求められない限りは、問題とならないことが多いでしょう。
返済を求められたらどうなるのか
万が一、返済を求められたという場合であれば、その友人との人間関係等を考えれば、返済に応じた方がよいと思われますが、債権者一覧表にその友人を記載しなかったことに、「過失がない」という場合(言い換えれば忘れていたことに落ち度がない場合)であれば、破産手続きによって免責を受けていたことを主張することは、法的にも可能です。
たとえば、次のような場合であれば、友人からの借金を債権者一覧表に記載しなかったことに過失がない場合といえるでしょう
- 友人からの借金について債権者である友人と長期間、話題になったことがない
- 友人からの借金の額が大きくない場合(忘れてしまっても仕方のない金額の場合)
ただ、そもそも過失がなかったことを争うとなれば、それはその友人と訴訟沙汰になるということを意味しますので、人間関係はおそらく壊れてしまいます。
友人からの借金ということであれば、忘れていても仕方のないくらいの金額であることが多いでしょうから、現実レベルの解決策を考えればよいと思われます。しかし、友人の連帯保証人となっていたときには、その友人の債権者はあなたの債権者でもありますから、この記載が漏れていたというような場合には、予期しない重大なトラブルとなることがありますので、破産を申し立てる際には、過去に家族・親戚・友人などの連帯保証人となったことがないかどうか、しっかりと記憶を辿っておく必要があるでしょう。
破産手続きの前に友人の借金だけを返済した場合
友人からの借金については、破産から外すというよりも「先に返済してしまおう」と考える場合の方が多いかもしれませんが、これも破産手続きとの関係では問題となることがあります。冒頭でお話したように、破産の場合には、「債権者平等の原則」が重視されます。
したがって、特定の債権者のみを特別扱いするということは許されません。このような特定の債権者だけを特別扱いする返済のことを偏頗弁済(へんぱべんさい)とよんでいます。
偏頗弁済のあるケースは管財事件となります
偏頗弁済された場合には、本来であれば、すべての破産者への配当にまわされるべき財産が、特定の債権者だけに返済されたことになりますから、この返済された金銭を取り戻して、すべての債権者に公平に配当する必要があります。このように、過去の返済行為を否定してその返済金を配当のために取り戻すことを「否認権の行使」とよんでいます。
この否認権の行使は破産管財人がしますので、偏頗弁済が疑われる破産事件では、仮に破産者に財産がなく同時廃止として扱える事件であっても管財事件として取り扱われることになりますので、予納金の負担額が増え、破産手続きにかかる期間も長くなりますし、免責判断でも不利になりますので、破産者(あなた)にとってはとても大きなリスクとなります。
偏頗弁済が問題となる場合
では、偏頗弁済はどのような場合に問題となるのでしょうか。偏頗弁済とされるかどうかの要素は、①返済義務の生じている(履行期の到来している)債務かどうか、②返済された時期がいつなのか、③債権者は債務者が破産するということを知っていたかどうかの3つになりますが、それを簡単にまとめたものが下の表です。
返済義務あり | 返済義務なし | |
---|---|---|
返済された時期 | 支払停止後 | 支払停止の30日前以降 |
破産することを知っていたかどうか | 知っていた | 知っていた |
たとえば「返せるときでいいよ」というような借金であれば、返済義務がまだ生じていない債務といえますから、支払停止(これは弁護士に債務整理を依頼した時と理解しておけば良いです)のときより30日前よりも後に、友人や親戚等に返済した場合には、偏頗弁済として評価される可能性があるということになります。
友人の場合であれば、破産者(あなた)がお金に困っていて破産をすることを知っていたかどうかが問題となりますが、偏頗弁済の相手方が家族や親戚の場合には、このような事情は知っていたという扱いをされますので、友人の場合よりも厳しい取扱いになることに注意が必要です。
現実問題としては、数千円や1万円といった返済であれば、特段問題とされることはないと思いますが、返済額が20万円を超えるような場合であれば、ほぼ偏頗弁済とみなされると思っておいた方がよいでしょう(実際に、親戚への30万円の返済が偏頗弁済にあたるとして免責不許可としたケースがあります)。
一般的には、額の多い借金ほど「迷惑をかけたくない」と何とか金策して(そのために借金をしていれば、それも問題になりますからそのようなことはしてはいけません)、返したく鳴る気持ちはよくわかるのですが、破産手続きとの関係では、逆に相手の友人や親戚にも余計な迷惑をかける(破産管財人から返金を請求される)ことにもなるので、やはり返済は控えておくべきでしょう。
それでもなんとか友人に返したいとき
それでもやはり友人や親戚の借金だけは返したいというときには、破産手続きがはじまって後に得た財産(たとえば給料)から返済するということであれば、何ら問題がありません。破産手続きの場合であれば、破産手続き開始決定後に得た財産は新得財産として、破産者は自由に処分することができるからです。
ただし、個人再生の場合には、再生計画が完了するまでは、再生計画認可後の収入で知人等からの借金を優先的に返済することは問題となりますので、注意されてください。
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