会社の役員でも借金に苦しむことは少なくありません。たとえば、中小企業の社長であれば会社借入の連帯保証人となっていることは珍しくありません。また、上場企業の役員であっても、社会的地位があることから他人の連帯保証人を頼まれることが少なくないでしょう。
会社役員が債務整理する際には、
- 役員をクビになるのではないか?
- 事業に影響がでるのではないか?
といったことが心配になります。
そこで今回は、役員の方が債務整理する際に、知っておきたいポイントについてお話します。
会社に関する法律は、運用が頻繁に変わります。古い情報に惑わされないよう、最新の情報を確認することが大切です。
目次
会社形態によってルールが違います
現在の法律(会社法)では、会社は「株式会社」と「持分会社(合同会社・合資会社・合名会社)」に区分されます。会社法が2006(平成18)年に施行されたことによって有限会社法は廃止されたので、有限会社を新規設立できません。既存の有限会社は、「特例有限会社の解散登記」と「株式会社の設立登記」を経て株式会社になりますが、移行前の有限会社を「特例有限会社」とよびます。
株式会社(特例有限会社)の役員は「取締役」、持分会社の役員は、「社員」です。会社役員が債務整理する場合の注意点は会社の形態によっても違います。
取締役が債務整理する場合の注意点
まず株式会社の役員である取締役が債務整理する際の注意点についてお話します。
「破産者すると取締役になれない」は間違った情報です
現在の法律では、「破産者でも」取締役になれます。ネット上には、未だに会社法施行前の古い情報があるので注意が必要です。
確かに、以前の法律(会社法施行前の商法・有限会社法)では、破産者は取締役にはなれませんでした(商法254条)。しかし、このルールは、2006(平成18)年の会社法施行により廃止されました。商法254条は現在では削除されています。
以前のルールでも、「過去に破産した人」であっても、免責等の方法で「復権」すれば取締役に就任することは問題がありませんでした。現在の法律では、「免責確定(復権)前」であっても、取締役に就任できます。会社法によって大きく緩和されました。
「復権」については、こちらの記事をお読みください
なお、個人再生・特定調停・任意整理では、資格制限は一切ありません。
「資格制限はない」が「会社との契約が終了」します
取締役は「破産によって退任」することになります。これは、破産による資格制限ではなく、「自己破産によって「株式会社との契約が終了」するためです。簡単にまとめると次の通りになります。
- 取締役と株式会社との関係は「委任契約」(会社法330条)
- 委任契約は、契約当事者が「自己破産」すると終了する(民法653条3項)
- 退任後の「再任」は法律上全く問題ない
退任後の再任は「免責前であっても問題ない」ことは、先にお話したとおりです。
なお、取締役の退任と再任にはそれぞれ登記の手続きが必要となります。退任の変更登記の際には、裁判所から送達される「破産開始決定書」が必要となります。したがって、取締役の破産は会社に通知する必要があります。
登記手続きの詳細については、司法書士などに相談してください。
取締役の再任手続き
取締役の再任は、株主総会で行います。株主総会の開催は、会社法のルールに従って株主に招集をかけなければなりません。
株式会社の形態 | 株主総会の招集方法 |
---|---|
公開会社(取締役会設置) | 取締役会による招集 総会の2週間前まで(定款での変更不可) 書面・メールでの通知(原則書面) |
非公開会社(取締役会設置) | 取締役会による招集 総会の1週間前まで(定款で変更不可) 書面・メールでの通知 |
非公開会社(取締役会非設置) | 取締役による招集 総会の1週間前まで(定款で短縮可能) 書面・メールでの通知(口頭でも可能) |
非公開会社であれば、再任は簡単
株式会社というと「大企業」をイメージされる方が少なくありません。しかし、実際の株式会社のほとんどは、小規模な「非公開会社(閉鎖会社)」です。たとえば、「株主が家族だけ」という非公開会社の場合であれば、「定款で予め定めておく」ことで、再任手続きを簡単にできます。
「家族だけが株主」というような「取締役会非設置株式会社」では、ごく簡単に株主総会を招集することも可能です。たとえば、株主である家族が集まっている時に「明日株主総会をする」と「口頭で伝える」だけで株主総会を招集できます。したがって、非公開会社であれば、最短で退任の翌日に再任することも可能です。
会社設立の際に、債務整理のことを念頭におくことは珍しいですが、株主総会を簡単に開けるというのは、債務整理以外場面でも大きなメリットになります。定款の定め方については、司法書士などに相談してください。
株主の多い株式会社であれば、株主総会への対応をしっかりする必要があります。また、株主の多い株式会社では、1人の取締役を再任するためだけに臨時株主総会を招集することは難しいこともあるでしょう。したがって、上場会社の取締役は、自己破産ではなく、任意整理や個人再生がすすめられます。
持分会社の社員の場合
会社法の分類では、会社には、株式会社のほかに「持分会社」があります。持分会社には、合同会社・合資会社・合名会社の3つがあります。
このうち合同会社は、有限会社に代わる新しい会社形態で、「新規起業」の場合によく選ばれています。有名企業では、アップルジャパンや西友が合同会社です。
持分会社の役員は「社員」です。この「社員」とは法律用語ですので、「従業員」とは異なります。会社法では、「会社に出資した者」を社員といいます。
株式会社は「出資」と「経営」が分離され、持分会社は「出資」と「経営」が一体となるところに大きな違いがあります(取締役は「出資者」である必要がありません)。
持分会社の社員は「破産で退社」します
持分会社の社員は、「破産」によって退社します。これは会社法607条1項5号で定められています。
しかし、「予め定款に定めておく」ことで、「社員が自己破産しても退社しない」ようにすることも可能です(会社法607条2項)。破産後の再任も問題ありませんが、出資金を確保しなければならない点で注意が必要です。復権後の再任は全く問題ありません。
なお、業務執行社員が退社した場合には、2週間以内に変更登記する必要があります(業務執行社員でない社員の退任には変更登記は不要です)。
出資金の取扱い
合同会社の社員が退社する際には、「出資金の払戻し」が問題となります。出資金の払戻しは、①会社に払い戻してもらう方法と、②他の社員に譲り受けてもらう方法とがあります。①では、官報公告が必要となることもありますので、②で処理する方が簡単です。債務整理を依頼する弁護士・司法書士と相談の上で対応すると良いでしょう。
「1人会社」のときには注意が必要
合同会社は、「個人事業主の法人成り」でもよく選ばれます。1人会社の合同会社の代表社員が自己破産した際には、合同会社の解散となるので注意が必要です。
- 合同会社の社員は、破産手続き開始の決定によって退社する(会社法607条1項5号)
- 1人会社の場合には、代表社員の自己破産により社員がいなくなる
- 社員のいない合同会社は解散となる(会社法641条4項)
代表権のある役員の債務整理は会社の信用に悪影響を与えます
役員個人の債務整理が「会社のブラック情報」となることはありません。しかし、会社の代表者(代表取締役・代表社員)の債務整理は、「事実上」会社の信用に悪影響を与えます。
たとえば、「1人会社」や家族経営のような「小規模会社」に対する融資の際には、代表取締役・代表社員の信用情報が調査されるのが一般的です。したがって、次の期間には、金融機関から会社が融資を受けることはかなり難しくなります。
- 任意整理・特定調停・個人再生から5年
- 自己破産から7年
しかし、「2ヶ月以上の延滞」も「ブラック情報」ですから、延滞が続いている時点で、融資は難しくなります。債務整理によって借金がなくなれば、ブラック情報は時間の経過で必ず消去されます。
なお、代表権のない「ヒラ」役員の信用情報、会社の信用に影響を与えることはまずありません。また、官報にも掲載されない任意整理であれば、取引先に知られずに債務整理が可能です。
「任意整理」で処理するためにも早期対応が重要
取締役の資格制限が廃止されたといっても、会社役員の自己破産には大きなリスクがあることは変わりがありません。任意整理・個人再生であれば、破産の際に生じるリスクの多くは回避できます。
会社役員の方の借金問題は「金額が大きくなりがち」です。また中小企業の役員であれば、役員の経済危機は、会社の経営危機であることも少なくありません。そのため、問題を「1人で抱え込んだ」結果、「もはや破産しか選択肢がない」ということも珍しくありません。
借金の問題は早期対応が重要です。弁護士・司法書士に相談することで、必ず良い解決策が見つかります。