「自己破産するとパスポートに記載される」、「自己破産すると旅行できなくなる」ということを気にして、自己破産を躊躇する方がいるようです。
確かに、自己破産すると旅行や転居を制限されることがあります。しかし、それは「一時的」なものに過ぎません。実際には、ちょっとした旅行であれば国内外問わず全く問題ないといえるでしょう。
この記事では、破産手続きと旅行との関係について説明していきます。
目次
自己破産したことがパスポートに記載されることはない
まず、「自己破産」したことは、「パスポートには記載されません」。破産はパスポートの発給に全く影響を与えません。
しかし、永住・就労ビザ・就学といったビザの発給には、自己破産は関係してきます。ビザの発給条件には、素行要件や生計要件があります。ビザ申請直前に自己破産すると、この要件に抵触します。自己破産が過去のもので、現在の収入・資産に問題がなければ、不問とされる場合もあります。
「自己破産するとパスポートに記載される」という噂は、ビザの発給に影響を与える場合があることを誤解して理解された可能性が高いです。しかし、多くの海外旅行は「ビザなし渡航」ですから、自己破産しても影響ありません。
自己破産すると旅行できなくなるのか?
破産法37条は「破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができない」と定めています。この条文によって、自己破産すると旅行(や引っ越し)が制限されます。
しかし、この制限は一時的なものに過ぎませんし、「旅行が絶対に禁止される」わけではありません。
自己破産したときに旅行が制限されるのは、申し立てた破産が「管財事件」の取扱いとなる場合のみです。
管財事件とは、簡単に言えば、破産者の資産や負債について慎重な調査をしなければならない場合に選択される方法です。管財事件では、破産管財人が選任され、破産者の財産・負債についての調査をします。破産管財人がする調査の例は、次の通りです。
破産管財人が行う調査の例
- 破産者の財産を売却する
- 破産者に財産隠しや申告漏れがないか調査する
- 未確定の権利関係(過払い金など)について必要な措置をとる
- 不公平な返済などがあったときに是正する
- 債権者からの差押さえを解除・回避する
- 裁量免責させて良いかどうか調査する
- 破産者の自由財産(破産しても取り上げられない財産)を拡張する
破産すると旅行が制限されるのは「破産したペナルティ」ではありません。破産者には「破産管財人が職務を遂行するために必要な説明をする義務」があります。この義務を果たす必要がある限りで、居所を変えることが制限されるに過ぎません。
管財事件となるケース
申し立てた破産事件が「管財事件」となるのは、破産者に、差し押さえが禁止される財産のほかに「20万円以上の財産」がある場合です。たとえば次のような財産が20万円を超えるときには、管財事件となります。
- 119万円を超える財産(99万円までは差し押さえされない)
- 預貯金(すべての口座の合計)
- 生命保険の解約返戻金
- 自動車(破産手続き開始時の処分価値)
- 不動産
- 破産手続き開始時の支給見込み額が160万円を超える退職金
管財事件は、保有している財産にもよりますが、終了まで3~10ヶ月ほどかかります。不動産を保有している場合、売却に時間がかかれば、さらに長期になることがあります。
いつまで旅行が制限されるのか?
破産法37条の制限(転居・長期旅行の制限)は、「破産手続き開始決定から破産手続き終了まで」続きます。破産の申立てをするとすぐに制限されるわけではありません。また、「免責確定まで旅行が制限される」と説明しているサイトもありますが、正しいとはいえません。
破産法37条は、「説明義務を果たすための制限」なので、破産手続きが終了すれば、制限する必要がなくなるからです。
ただし、免責手続きでは「免責審尋」という期日が開かれます。現在の運用では免責手続きには「破産者本人が出頭する」のが原則です。「免責審尋を海外旅行ですっぽかす」ということになれば、当然免責判断に悪い影響を与えます。
自己破産する場合に免責を受けられるかどうかは最も重要なポイントです。破産手続きの終了で居住(旅行)制限は解除されますが、免責手続きが終わるまでは裁判所の呼び出しに対応できるようにしておくべきでしょう。
申し立てた破産が「同時廃止」となった場合には、破産手続きは開始と同時に廃止(終了)するので、旅行は制限されません。
破産手続き中でも裁判所の許可を得れば旅行は可能
破産手続き中に急な出張などで「遠方に出かけなければならない」こともあり得ます。この場合には、裁判所の許可を得れば、出張や旅行することは問題ありません。先に説明したように「居場所の制限」は懲罰ではないので、必要な出張や旅行まで禁止されるものではありません。
弁護士に依頼することが制限を早く解除するために重要
旅行や出張が禁止されなくても許可を受けなければならないのは確かに面倒です。なお、現在の破産事件の運用では、「財産がないケース」でも、弁護士に依頼せずに「本人申請で申し立てたときには管財事件」として取り扱われることが一般的です。この場合には、裁判所に支払う予納金も50万以上となり高額になります。
また、次のような場合にも、財産の有無とは別に管財事件として取り扱われます。
- 破産者に財産隠しが疑われる場合
- 過払い金の有無を調査する必要がある場合
- 破産申立て前に特定の債権者にだけ優先的に返済した場合
- 破産申立て前に債権者から差押えをされている場合
- 免責不許可事由がある場合
- 破産者の自由財産(破産しても取り上げられない財産)を拡張する場合
これらの多くは、早期に弁護士に依頼することで、破産申立て前に解決できるものです。自己破産による制限をできるだけ小さくするためにも、弁護士に依頼することが重要です。