破産手続きの利用は、最終的には債務の支払を免除してもらうために行うものです。その対価として、破産者(債務者)は、すべての財産を提供することを求められます。しかし、一部の債務については、免責を受けても支払義務が免除されない取り扱いになります。
目次
非免責債権の種類
破産の免責の影響を受けない債権のことを「非免責債権」といいますが、下に挙げるものがそれに該当します。
- 国や市町村が強制徴収できる請求権(税金・国民健康保険料・下水道料金・罰金等)
- 悪意の不法行為による損害賠償請求権
- 故意または重過失による生命侵害・身体侵害による損害賠償請求権
- 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 生活費や養育費等の家族関係から生じる請求権
- 未払い給料等の請求権(破産者が個人事業主である場合)
- 破産者がその存在を知っていたのにもかかわらず債権者名簿に記載しなかった債権者の請求権
国や市町村が強制徴収できる請求権
これに含まれるものとしては、固定資産税や住民税のような税金や、健康保険税、年金、下水道利用料金、罰金などが挙げられます。ガス・電気の料金は、公共料金といわれるものですが、これは国や市町村長が強制徴収できる請求権ではないので、非免責債権とはなりません(滞納分は免責されます)。
ただし、破産手続き開始決定後の料金を未納すれば、止められてしまいます。水道については、下水料金とは徴収根拠となる法律が異なるため、市町村に支払うものですが、非免責債権とはなりません。
不法行為による損害賠償請求権
民法では、故意や過失によって他人の権利を侵害した場合には、それによって発生した損害を賠償しなければならないとされています。たとえば、他人を物を誤って壊してしまった場合や、他人を怪我させてしまった場合、交通事故で相手を死なせてしまったという場合に、損害賠償金を支払わなければならないということです。
このような場合に加害者である破産者が、損害賠償を支払わないうちに、破産の申立てをしたとしても以下の場合には、免責されないということになります。そうでなければ被害者との関係であまりにも不公平だからです。
- 破産者のした不法行為が悪意による場合(詐欺や横領など)
- 破産者のした不法行為が故意による生命侵害(死亡)や身体侵害(怪我)の場合
- 破産者のした不法行為が重過失による生命侵害や身体侵害の場合
ここでは、悪意・故意・重過失という言葉の理解が一般の方には難しいと思われます。わかりやすそうな例で説明すれば、次のように説明することができるでしょう。
飲酒運転をしてしまった ・・・重過失
無免許であることを知りながら車を運転した・・・故意
相手を轢いて怪我をさせるつもりで轢いた ・・・悪意
下にいけば下にいくほど責任は重くなります。ですから、生命侵害や身体侵害の場合は、故意・重過失の場合には免責されず、さらに責任の重い悪意の場合には、それよりも被害の軽い不法行為(たとえば器物の破損)であっても免責されないということになるのです。
離婚の慰謝料については、離婚原因がDV(家庭内暴力)によるものであるときには、この慰謝料は非免責債権となります。他方で、不貞行為(浮気)の慰謝料は、確かに不法行為による損害賠償なのですが、不貞行為を働いた配偶者に積極的な加害意思(悪意)がない限り、非免責債権とはなりません。
生活費や養育費等の家族関係から生じる請求権
破産者が扶養義務者となる場合に負担義務を負う費用は、非免責債権とされます。いわゆる養育費や婚姻費用(別居中の配偶者の生活費等)がこの例として挙げられます。この費用は以前は免責される債権でしたが、平成16年の破産法改正の際に、新たに非免責債権として付け加えられたものです。
未払い給料等の請求権(破産者が個人事業主である場合)
労働者の賃金は手厚く保護される必要があります。したがって、法人が破産した場合と同様に個人事業主が破産した場合であっても、その従業員に対する賃金の支払を免れることはできません。
知っていたのにもかかわらず債権者名簿に記載しなかった債権者の請求権
これは、債権者名簿(債権者一覧表)を虚偽で作成したことになりますから、破産手続きに対する背信的な行為として、免責不許可事由となります。債権者名簿(債権者一覧表)に記載されなかった債権者には配当がありません。したがって、本来得られるはずであったのにもかかわらずこれを得られなかったことを補填するために、非免責債権として取り扱うことになります。
債権者が破産手続きが開始されたことを知っていたときは免責債権
しかし、この債権者が破産手続きが開始されていることを知っていたという場合であれば、債権者自ら破産手続きに債権を届け出ることで債権者名簿(債権者一覧表)に記載されることになります。
債権者が破産手続きの存在を知っていてもなお、債権者名簿(債権者一覧表)に記載されていなかった場合には、配当を受けることを自ら放棄したと考えることができるので、そのような債権者の保護する必要はありませんから、この場合には、債務者が意図的に債権者名簿(債権者一覧表)に記載しなかったとしても免責債権として取り扱われることになります。
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