突然の病気やリストラ、友人の連帯保証人となってしまったこと等、借金を重ねてしまった原因は、実にさまざまですが、パチンコや競馬等のギャンブルや、株やFXといった投機行為なども多大な借金をつくってしまった原因の典型例に挙げられます。
ギャンブルや遊興費などで借金を作ってしまった場合については、「破産しても免責されない」、「ギャンブルの借金でも免責できる」両方の情報が飛び交っていますが、この記事ではその問題についてお話していくことにします。
目次
破産法の規定ではどうなっているのか
破産した場合であっても、免責を得なければ、残った借金の支払い義務は免除されませんから、自分のケースで免責されるかどうかということは、破産の申立てを検討している人にとっては、重大な関心事です。この免責について、破産法では、一定の事情がある場合には、免責を与えないこととしています。この場合の免責を与えるべきではない事情のことを、「免責不許可事由」といいます。
この免責不許可事由は、破産法252条という条文でいくつかの事情が定められています。たとえば、パチンコ・競馬等のギャンブル、キャバクラやホストクラブ遊び、株やFX、ブランド品の購入などによる借金が原因となって破産をした場合には、「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担した」(破産法252条4項)という免責不許可事由に該当するものと理解されています。
この条文をそのまま読む限りでは、たとえばパチンコ(賭博)で多額の借金を負って破産をしたときには免責されないということになります。
ところが、実際の破産(免責)手続きの結果は、免責事件の95%以上が免責されています。これは、(後に改めて説明しますが)免責不許可事由があるケースであっても、裁判所の裁量で免責させることが破産法では認められています。これを「裁量免責」といいます。ですから、ギャンブル等の破産で得られる免責は、この裁量免責によるものなのです。「ギャンブル等で借金しても免責される」という説明は、このような事実をさしてのものです。
しかし、現在の破産手続きの運用では、少なくともギャンブル等を原因とする破産の場合には、免責をもらうことは簡単ではないと認識しておくべきだと思われます。
ギャンブル等による破産は管財事件
破産の手続きには、「管財型」とよばれる方式と、「同時廃止型」とよばれる方式とがあります。それぞれの方式については、下記の関連記事をお読みいただければと思いますが、従前は、個人破産のほとんどがこの同時廃止型で処理されていましたので、破産手続きが開始されると同時に廃止され、実際に行われるのは免責手続きのみという運用がとられていました。
この免責手続きも現在の運用に比べれば明らかに破産者に甘い対応をしていたところがあります(それには後に述べるような理由があります)。
【関連記事】48 破産「管財事件」と「同時廃止事件」の違い。どのように決まるか?
49 個人破産は同時廃止が原則ではない。少額管財となる6つ条件とは
ですから、破産者の負担はそれほど大きくなく、破産手続きにかかる費用も少なく済みましたので、「ギャンブル等で破産しても(同時廃止だから)簡単に免責をもらえる」という認識が一部では広まっていました。
裁判所のこのような対応の背景には、借金の原因はギャンブルであったとしても、その債権者である貸金業者の側にも、グレーゾーン金利に代表されるような問題が少なくなかったことや、個人破産のような小規模案件を管財型で処理するだけのノウハウが裁判所になかったことがあります。
そして、現在の破産手続きの運用においては、この2つの問題のどちらもが解消されています。それを受けて、免責の実務にも変化が起きています。
現在の運用
一番の大きな違いは、現在の破産手続きでは、免責不許可事由に該当するケースは、破産者の財産の有無を問わず、(少額)管財として取り扱われることです。したがって、ギャンブルや浪費などを原因に破産を申し立てる際には、管財事件の予納金(20万円以上)が必要となります。
したがって「パチンコで全部すってしまって財産は何もないから、同時廃止で免責をもらえる」ということは、まずあり得ません。ギャンブルによって破産することになったという方は、管財事件の予納金だけは何とかかき集めないと、破産すらできないということになります。
ちなみに、この予納金を貸金業者から借金して用意するという行為は、免責不許可事由となるだけではなく、詐欺破産という犯罪に問われる可能性がありますから、絶対にしてはいけません。
このように、現在の破産法の運用では、ギャンブルのケースに限らず、偏頗弁済(へんぱべんさい)の疑いがあるケースや、収入や氏名を偽って借金をしたことが疑われるケース等も含めて、免責不許可事由の存在が疑われる破産申立ては、管財事件として取り扱って、破産管財人にこの免責不許可事由についての調査をさせることになっています。
調査をしなければ「裁量免責」は与えられない
実はこのような運用は、適正に裁量免責を与えるために必要な手続きなのです。裁量免責を得るためには、たとえば「ギャンブルで多額の借金を作ってしまったことを真摯に反省している」といったような、わかりやすくいえば、「本当は免責不許可なのだけども、そこまで反省しているなら特別に免責させてもよいだろう」と思わせられるだけの事情がなければいけません。
しかし、同時廃止で処理した場合には、そのような裁判所の裁量で「特別に」免責させても良いといえるだけの事情があるかないかがわからないのです。それまでの運用では、その調査を十分にできなかったのは裁判所の都合もあったので、裁量免責は比較的緩やかに認められていましたが、現在ではいわゆる少額管財の運用が広まったことで、その調査をするだけの体制が整ったということになりますから、調査もしないで免責を与えるというわけにはいかないのです。
管財事件とすることは、不誠実な債務者への温情
その意味では、以前の運用が例外的なのであって、現在の運用はあるべき運用に戻ったということができます。実際に、免責不許可事由が認められるケースを同時廃止で処理したことを理由に免責が認められなかったという裁判例も存在します。このことを別の見方でとらえると、そもそも免責不許可事由がある場合には、裁量免責を与えなくてもよいわけですから、管財事件として取り扱うということは、裁量免責を与えられるチャンスを提供しようということなのだと理解することもできます。
心配な場合には弁護士・司法書士に相談しましょう
ギャンブルの程度や借金の額が軽いという場合には、同時廃止であっても免責を受けられる可能性がないわけではありませんが、免責を得られるかどうかは非常に重要な問題ですから、予納金の負担等の関係でどうしても同時廃止で処理してもらいたいというときには、代理人弁護士によく相談されることが大切です。
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